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埋み火   講談社  日明 恩

埋み火   講談社  日明 恩_f0071477_2234199.jpg老人世帯で連続する失火による火災。住人は、“不運な偶然が重なって”焼死。赤羽台出張所の若手消防士、大山雄大は出火原因に疑問を持ちはじめていた。「…これは、放火自殺なのか…?」閉塞した世の中を雄大が救う。

周りの人から必要とされていないということを感じたり、家族から無視されたりして、生きていく気力をなくした老人。しかしプライドから、それを理由に自殺したと思われることは耐え難い。そこで同じように生きている価値を見出せない少年の知恵を借り、「失火火災」と見せかけて自分の人生にピリオドを打つ。
それに気付いた主人公雄大。彼は正義感から消防士になったわけではない。職務としてなのか別の理由からなのか自分の気持ちがよくわからないままに、連鎖する老人よる失火火災を未然に防ごうと奮闘する雄大。
そして、悪友裕二と少年に体当たりでぶつかることにより、少年の重く深い境遇を理解し、少年の「なんのために生きるのか?」という問いに必死に自分たちなりの答えを探して説く。正論でなくても人はやはりどこかに自分が生きているという意味を持たずしては生きていくことは難しい。
しかし、努力すれば、頑張れば、すべてが思い通りになるわけでもない。老人の放火を未然に防いだからといって、その不幸な境遇を変えることはできない。
また、他人の生まれ持った資質をどんなに羨んでも、自分も持てるわけではない。努力ではないところで手に入れたものをもつ相手を、うらやましさゆえに憎む対象になったりもする。
雄大の成長物語でもあるが、様々なテーマが絡み、色々考えることも多かった。
後半の雄大が母親に感謝の気持ちを伝える場面は胸がいっぱいになった。いいなぁ、こういう親子関係。
ただ、同じ表現が何度も出てきたり、1つの言葉、文に、主人公の言葉にいちいち説明や感情がト書きのように入るのが少々わずらわしくも感じた。これらを省いてもうちょっとシンプルにしたら、もっとすっきり読めると思う。

- 以下、印象に残った一文を抜粋 -

『人間関係は狭いより広いに越したことはない。一つが閉ざされていても、他の何かが残っていれば、そこに心の平安を求められる。それこそ、一番断ち切ることが出来ない親子関係からも、避難できる場を持っていれば、人は救われることもあるのだ。
 だからと言って闇雲に広げれば良いというわけではない。人数じゃない、バリエーションだ。でももともと人は同じ価値観や倫理観の人たちとつい固まってしまう。違う相手は理解できないのだから、当たり前と言えば当たり前だし、何よりそれが楽だからだ。
 そうしてけっきょく似たような人間関係の中で失敗してしまうと、道を失ったと思い込み、どうして良いのか判らなくなってしまう。それを避けるには、出来るだけ違う価値観や考え方を持つ人と繋がっていた方が良い。だからまずは、自分と違う価値観や考え方を持つ人間が、世界にはいくらでもいることを知っていれば良いのだ。たとえ今はその人たちがどこにいるか判らなくても、存在を知っているのだから、いつかは出会えるに違いない。』
by ohtanmak | 2009-08-10 22:03 | 読書記録

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